「教育七五三」の現場から-高校で7割・中学で5割・小学校で3割が落ちこぼれ

確か新社会人の「七五三現象」というのがある。これは中卒・高卒・大卒の三年以内の離職率のことを表している。では「教育七五三」とはいったい何なのかというと本書の副題に書いてあるとおり「高校で7割、中学で5割、小学校で3割が落ちこぼれになる」ことを表している。

PISAの学力調査でも、成績が軒並み落ち込んでおり、教育の在り方について問われているといっても過言ではない。本書はどのようにして学力低下の原因と処方箋について「陰山メソッド」を中心に考察を行っている。

第一章「子どもたちの異変」

子どもたちの異変は学力ばかりではない。もっと深刻なのは「体力の低下」にある。本書では体力調査として25m走やソフトボール投げの結果の変遷が取り上げられているが、記録が右肩下がりとなっているのが現状である。また免疫系に関しても「アレルギー」といったものが増えているが、これは「潔癖性」と密接な関係がある。

第二章「生活破壊の現状」

子どもの生活態度が崩れていることについて警鐘を鳴らしているところである。 子どもの夜更かしについては、子どもによってでてきた要因ばかりではなく、大人の夜更かしに付き合わされることによって崩れてしまう要因もある。

また、遊ばなくなりメディア漬けになる、TVといったメディアも面白くなくなってきたことによってインターネット漬けになるという状態となっている。

昔は子どもは外で遊べというようなことを言われており、実際に虫とりや鬼ごっこなど外で遊ぶ機会が多かったが、地域コミュニティが薄れてきたことや誘拐や通り魔など物騒なことが目立って報道されるようになって、外は危ないという親の認識が生まれ外に遊ばせないという親もいるという。

第三章「育ちそびれとライフハザード」

10数年前に話題となったものとして「学級崩壊」と言うのがある。これは90年代後半に多発したのだが、学級崩壊は学年差があるとはいえ、小学4~6年生が最も多く、女子の思春期と重なるため思春期での心の揺れによって引き起こされるのではないかと言われている(一概にそうは言えないが)。

本章で中心に取り上げているのは「小1プロブレム」という聞き慣れない名前であるが、児童の奇怪な行動などにより学級崩壊を招くということから大阪で名付けられたという。 育ちそびれの象徴として中心に挙げられているが、親の躾不足や地域社会の希薄化ということから、人間関係の理解に疎くなってしまったことが要因として挙げられるという。

第四章「朝ごはんを食べると学力が上がるか」

「陰山メソッド」がここから紹介されるが、間違ってほしくないのは「百ます計算」のことに関して触れられていると思いであるが、これは一切触れておらず、メソッドの一つとして挙げられている朝ごはんを食べることについての考察を行っている。 これは実践によって証明されているが、これに関して批判的な論者は少なくない(因果関係が疑わしいという)。

第五章「学力は本当に低下しているのか」

2006年に行われたPISA学力テストの結果、日本の順位が低下したことにより「学力低下論争」と言うのが加速化し、結果として「ゆとり教育」の撤廃といったことが決まった。 しかしその要因についてはゆとり教育、詰め込み教育といった「教育システム」、親・子供の在り方など様々な議論がなされているようだが、効果的なものが出てこないでいるというのも現状である。

また注目された「フィンランド式教育」も日本の国土からして、効果があるのかというのはまだまだ疑わしいところもある(そればかりではなく「フィンランド式教育」のデメリットを取り上げている文献が少ない)。

第六章「十歳の壁をどう克服するか」

十歳の伏線はどのようなことから生まれたのかというのが知りたくなる。本書では小学1・2年生では具体的に教えられていたのが、3年生になって教えて方がだんだん抽象的になり始める時期となり、学校の授業についていけなくなる時期のことを指している。本書のタイトルとなっている「七五三現象」を象徴させるようなところである。

第七章「生活改善と処方箋」

生活改善をするためには親から働きかけなくてはならない。親が子供に対して「大人の時間」や「大人の場所」などを自覚させるようなことを覚えさせることも大事であるが、できる限りで親とともに規則正しい生活改善を行うことも効果的な処方箋であろう。食生活についても然りである。

遊びについてであるが本書では、「プレーパーク」について取り上げられていたが、「ある程度の自由を与える」こと、つまりは子供を外で遊ばせる自由を作ることが子供の成長に大きく影響を及ぼす。大人たちは自由に遊んだのにもかかわらず、「危ない」「物騒だ」と言うような場合によって身勝手な理由から子供に対して自由を奪っていることを自覚することからではないかと私は考える。

教育問題は今に始まったことではないが、昔の教育問題と違う点は親ともに考えるよりも、親も直さなければならないということの方が多い。生活改善や学力改善などは、大人を蔑ろにさせて子供に無理強いさせるというのは本末転倒なのではないかと言うのが昨今の教育問題を見ていて私なりに考えたことである。本書はそれを象徴づける一冊だった。