新版 グローバル・ディアスポラ

「ディアスポラ」とはいったい何なのだろうか。調べてみると、

「ギリシャ語で「撒き散らされたもの」が由来であり、元の国家や民族の居住地から離れて暮らす人、またはコミュニティ」wikipediaより)

の意味を表す。元々はユダヤ人が戦争と迫害により自ら住んだところから離れていったことを表しているが、現在では労働や家族のために移住するなどもその「ディアスポラ」として表されることもある。
本書は「ディアスポラ」そのものの研究と意味、そして現在の「グローバル化」における時代の「ディアスポラ」そのものの意味の変遷について考察を行っている。

第1章「ディアスポラ研究の四段階」
ディアスポラ研究として「古典的なディアスポラ」「1980年代のディアスポラ」「1990年代のディアスポラ」「現在のディアスポラ」の4段階に分割していることを説明している。

第2章「ディアスポラの古典概念」
第1章で段階分けした中での第一段階としてユダヤ人が受けた迫害や追放による「ディアスポラ」として「バビロン」についてを論じている。

第3章「犠牲者ディアスポラ」
古典的なディアスポラはユダヤ人を中心に論じられているが、そもそも「ディアスポラ」が起こったのはユダヤ人に限っていない。本章では「虐殺」や「奴隷」といった犠牲を起こしながら他国や大陸に分散をしたアルメニア人やアフリカ人についてを取り上げている。

第4章「労働者ディアスポラと帝国ディアスポラ」
18世紀から20世紀にかけて欧米列強による植民地化政策が各国で行われ、アフリカや東南アジアなどの国々が植民地化されていった。その象徴とされたのがイギリスがインドに対する植民地化である。そこで本章にあるような「労働者ディアスポラ」や「帝国ディアスポラ」といった迫害や追放とは少し違った形で「ディアスポラ」が行われた。

第5章「交易ディアスポラおよびビジネス・ディアスポラ」
交易とビジネスにまつわるディアスポラについてを論じているが、本章では当時の中華民国における「華僑」とレバノンが取り上げられているが、それらの事例を考えると昭和初期にあった日本の満州政策もそれに当たるのかもしれない。

第6章「ディアスポラとふるさとの地」
時代は現代にうつり、ユダヤ人のディアスポラも変わっていった。ここでいうユダヤ人の「ディアスポラ」はイスラエル国の建国が挙げられる。

第7章「脱領土化ディアスポラ」
カリブ海に住む人々、すなわちキューバやドミニカなどにすむ人々は領土から脱し、アメリカに移住するディアスポラが起こっている。その脱領土としてのディアスポラについて大西洋とカリブ海のあたりを中心に考察を行っている。

第8章「グローバル時代におけるディアスポラの動員」
これまでは政治や戦争による「ディアスポラ」について考察を行ってきたのだが、ここではビジネスや市場、経済における「ディアスポラ」についてを論じている。簡単にいえば企業や経済の「グローバル化」と「ディアスポラ」そのものの変貌についてを論じている。

第9章「ディアスポラの研究」
しかしなぜ「ディアスポラ」が重要なものになっているのか、帝国主義といった植民地、迫害といったものから、交易といった経済的な側面、さらにはグローバル化といった政府が関わらない民事的な「ディアスポラ」と「国」に関わらないものと変化していくことに研究の価値がある。

「ディアスポラ」と言う言葉はユダヤ人ら移民にまつわる歴史や思想を学ばないとでてこない言葉である。しかしこのディアスポラは迫害やビジネスにかけて幅広く捉えられており、かつその言葉の意味も時代とともに変わっていく。本書はその証といえる一冊である。