今月13日、作家・評論家の丸谷才一氏が逝去された。88歳という大往生であったのだが、個人的にはもっと生きてほしい気持ちでいっぱいだった。
書評文化の繁栄を願いで創設された毎日書評賞、私が書評集を出し、その賞を受賞したとき、丸谷氏からその表彰を受ける姿を一途に思いつつ、書評を書き続けた。もはやその願いが叶わぬものと知った時は悲しさと空虚さが広がった。ただ、一つの思いがよぎった。丸谷氏が描き、大きくしてくれた書評の世界をさらに広げること、それが私の「使命」となった。
本書は書評集ではなくエッセイ集であるが、丸谷氏ならではの言い回し、古語使い、表現技法がふんだんに盛り込まれており、エッセイであるにも関わらず読んでいても「このような言葉(表現)があるのか」と勉強になる一冊といえる。本書は全部で24のテーマが掲載されているが当ブログではその中から選りすぐりの5テーマを紹介する。
<検定ばやり>
昨今では国家資格のみならず、仕事から趣味、雑学に至るまで様々な「検定」が存在するが、その著者もその「検定」に興味を持ったことについて綴っている。「漢検」に対する批判、文学・思想にまつわる検定についての興味ばかりではなく、このテーマの最後にはささやかであるが、著者自身が作成した文学検定も取り上げられている。
<北朝びいき>
丸谷氏は文章では「ファン」と書くことはない。「びいき」と書くことがほとんどである。「DeNA」に買収されてからは知らないが、前身である「横浜ベイスターズ」が好きであり「横浜ベイスターズびいき」と公言したほどであった。
<新・維新の三傑>
「維新の三傑」と言えば木戸孝允、西郷隆盛、大久保利通とある。著者はそのことに対する批判とともに、このエッセイが発表された2010年の「龍馬ブーム」についてを取り上げながら、新たな「維新の三傑」を取り上げている。
<小股の切れ上つたいい女>
「小股の切れ上った」という言い回しについての考察を行ったエッセイであるが、その中で春風亭小朝、そして映画監督であり三遊派宗家である藤浦敦の対談を取り上げているが、その中で武士言葉・江戸弁などについて深く掘り下げられたものとなっているところが興味深かった。
<モーツァルト効果>
モーツァルトはクラシックの中でももっとも有名な人物の一人であるが、モーツァルトは特に際だっている。モーツァルトの曲を聞くと脳に対して良い効果をもたらすということもいわれている。丸谷氏はその「モーツァルト効果」にまつわることを取り上げながら自身の見解を述べている。
日本語は正しく書くことも重要であるが、それが全てではない。むしろ古くても新しくてもそれは日本語そのものの「進化」である。独特な言い回しや表現もまた書く人の人格を表す。丸谷氏はまさに「温故知新」を地でいくような文章を表現し、日本語やエッセイ、書評の面白さを見いだした功労者である。
その丸谷氏が作った書評の道は私も含めた書評家の「使命」なのかもしれない。
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