子どものまま中年化する若者たち 根拠なき万能感とあきらめの心理

「近頃の若者は・・・」と言う言葉は今も昔も存在する。もちろん時代の変化があり、なおかつ環境自体も変わっていく中で世代間の差(ジェネレーションギャップ)も存在する。その差について相容れられないような人々が先述の言葉を取り上げている印象が強くある。

話は変わり本書である。本書は若い世代の心の変化を長年見続けてきた精神科医が30年で若者たちの心や傾向が大きく変わったことを指摘ながら、今の若者たちが未来や青春と言ったものが無くなり、衰退してしまうのではないかと危惧している。その危惧している内容について30年の臨床現場での証言をもとにして取り上げている。

第一章「いま若い世代に起きていること」

身体的機能の低下はもちろんのこと、物事の判断力も低下しているという。他にも親などの周囲における状況によって「頑張っても報われない」と言う「諦め」の観念が生まれており、現在の子どもたちの考え方に影響を及ぼしている。

第二章「精神科臨床30年の現場から」

元々身体の成長に伴い、「心の成長」も行われる。心の成長によってメンタル面が強くなり、なおかつ良くも悪くも「大人」になっていくことができるようになる。しかしながら思春期・青年期のなかで環境面の変化や人間関係によって、不登校などになる傾向もあり、なおかつそれが精神面で悪影響を及ぼすケースもあるのだという。

第三章「悩めない、語れない若者たち」

とはいえ、非行に走っているか、あるいは病気にかかっているかというと、決してそうではない。むしろ心的な悩みを抱えているのかと思いきや、実はエネルギーの低下によるものもあるのだという。他にもどうやって会話のやりとりを行ったらよいかわからないコミュニケーション障害もの、主体性の低下なども存在する。

第四章「「青春」がなくなった人と世界」

今もなお「理不尽」と呼ばれるものが存在するのだが、現代になって、理不尽さは少なくなっているという。また経済的な成長が飽和状態となり、経済的なモノの豊かさは解決に近い。その一方で、経済的なものよりもむしろ、成長をしたい上昇志向、枯渇や満足感を得られるような場はあるものの、求めなくなったということも考えられる。

第五章「日本人はこのまま衰退するのか」

経済的な面では不幸ではないものの、精神的な面で不幸と呼ばれるが、なぜそうなったのか、そしてそれが日本人としての「衰退」を表すのかについて取り上げている。

モノの豊かさと心の豊かさは反比例しているのかもしれない。それは本書ばかりでなく、うつや心にまつわる本を読んでいった際につくづく感じてしまう。「諦め」といった概念は大人になったときに身につけられるものと信じられたのだが、今日では子どもの頃からそのような概念が芽生えてしまい、意欲を失わせてしまっている。それは今日の経済成長の副産物なのかもしれない。