独裁者に原爆を売る男たち 核の世界地図

「原爆」というと8月6日に広島に落とされ、8月9日に長崎に落とされた惨劇の記憶がある。それだけではなく、戦後は1954年にビキニ環礁で水爆実験が行われ付近で漁を行っていた「第五福竜丸」の乗組員が死の灰に触れて死亡した事件が存在する。

そう考えると非核化運動の先陣を日本が切っているはずだが、今となっては非核化どころか、北朝鮮やイランなどで核開発が進んでいる状況にある。しかもその背景には「闇市場」の存在があるという。本書はその闇市場の正体と核兵器のこれからについてを取り上げている。

第1章「北朝鮮と「核の闇市場」が結託するまで」
北朝鮮の核開発は1950年代、ちょうど冷戦の時代から始まっていた。そのときはプルトニウムやウランの開発自体が試行錯誤の段階にあった。しかし、中国やソ連の技術提供が実り、90年代にはいよいよ核開発の着手まで行こうとしていたが、1994年に米朝枠組み合意による開発中止があった。本章のタイトルにある「核の闇市場」と結託したのはそれ以降の話である。

第2章「北朝鮮の核武装を助けた「闇市場」」
結託する前に「核の闇市場」のドンと接触したことがある。それは1992年のこと。ちなみに「核の闇市場のドン」はA・Q・カーン博士である。カーン博士は北朝鮮のみならず、90年代半ばにパキスタン、他にもリビアやイランの核開発も関与している。実はカーン博士が北朝鮮に核開発を行った理由としては当時、中距離型弾道ミサイル「ノドン」の買い付けを行っていたが、支払いが滞っていたため、技術を提供する事になったという。

第3章「カーン博士と「核の闇市場」」
「核の闇市場」の中核を担うカーン博士だが、元々英国領インド西部(後のパキスタンとなる場所)で生まれ、敬虔なイスラム教徒だった。それだけにパキスタン独立の時にはインドなどの国々を憎悪した。それが核開発、ひいては「核の闇市場」をつくり、広げる引き金となた。それから工科大で修士号を取得し、核開発の研究にも着手した。その時祖国であるパキスタンに危機が訪れると、自ら研究していた核開発の技術をパキスタンに持ち帰り始めた。

第4章「「闇市場」崩壊」
徐々に広がりを見せた「闇市場」だったのだが、2000年代前半に崩壊し始めた。そのきっかけは「ティナー事件」である。「ティナー事件」はカーン博士の右腕とも言える存在だったフレッド・ティナーがいたのだが、彼の裏切りにより事件は起こった。詳細は本章の核心に触れてしまうのでここでは省くが、その裏切り行為は後にCIAがかぎつけるようになり、闇市場は崩壊をしてしまった。

第5章「ミサイル輸出大国北朝鮮」
北朝鮮が所有するミサイルには第2章で記載したノドン、メディアでも話題となっている長距離型弾道ミサイル・テポドンの他に短距離のスカッドミサイルも存在する。その中でスカッドミサイルは中東諸国(特にシリア)に輸出していると言われている。また輸出ではないのだが、技術協力の点ではイランとのスカッドミサイル開発で協力を行っているという。

第6章「イラン核開発と「闇市場」」
イランというと前のアフマディネジャド政権がアメリカに対抗するために核開発に打ち出した事でも知られている。それ故かアメリカの前大統領である、ジョージ・W・ブッシュが、イランの他にイラク・北朝鮮と「悪の枢軸」発言をした事でも有名であるのだが、「悪の枢軸」発言以前に核開発の動きは存在した。そのきっかけは1980~1981年に起こった「イラン・イラク戦争」である。この戦争にてイランでは原発が空襲の対象になってしまった。それまではイラン政権を支えていた当時のルーホッラー・ホメイニー氏は核開発などの活動を全面禁止したのだが、戦争がきっかけとなり翻意。核開発の再開をすることとなった。その後核開発自体は続けている状態にある。

第7章「核兵器の歴史と未来」
現在核爆弾はイラン・北朝鮮の他にもアメリカ・中国・ロシア・インド・フランスなどの国々が所持している。いずれの国々も核廃絶のための運動を起こしているのだが、実際に「核廃棄」までは行われていないというのが現状である。日本でも同様に「核武装論」が叫ばれており、政府単位で「核武装計画」が組まれることがあった。しかしこれは1950年代後半、時の岸政権の時であることは付け加えておく必要がある。

本書は原爆をタイトルにしているがサブタイトルに「核」が記載されているとおり、核戦争の現状について北朝鮮やイランなどを取り上げつつ、その黒幕とはどのような存在なのかについて、自らの取材を元に解き明かしている。黒幕の正体は先程も出たとおりカーン博士だが、観ていくとカーン博士の経歴もさることながら北朝鮮、中東諸国に対しどのように暗躍したのかが良く分る。本書は「核」と「黒幕」を暴くと言う意味では面白い一冊と言える。