俺のイタリアン、俺のフレンチ―ぶっちぎりで勝つ競争優位性のつくり方

「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」の勢いが止まらない。その勢いをつけたのがかつて古本業界を根本から変えさせた立役者、ブックオフの創業者である坂本孝氏である。本書の帯に書かれているのは京セラの創業者であり、JALの経営再建を行った稲森和夫氏だが、坂本氏は稲森氏の経営哲学を学び、古本業界、そして外食業界にて実践を続けてきた。もちろん稲森氏も坂本氏の活躍を知っており、推薦したという。

外食業界の革命というべき「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」はどのように完成したのか、そして著者が根付いている稲森哲学はどのようなものか、本書はそのことについて迫っている。

第1章「空前の繁盛店、「俺のイタリアン」誕生」
著者がブックオフの会長を退任したのは2007年の事である。その時は事業家として半引退状態にあったのだが、2009年に知り合いから焼き鳥屋をすすめられて飲食業界に参入し、串焼き屋から立ち飲み居酒屋、そしてシェフの融合を経て、原価率が高くても赤字にならない事業形態を作り出した。それは従来の飲食業の常識を真っ向から覆したスタイルだった。そのスタイルで作られたのが2011年9月に開店した「俺のイタリアン」だった。

第2章「2勝10敗の事業家人生」
「2勝10敗」の「2勝」は言わずもがな「ブックオフ」と「俺のイタリアン・俺のフレンチ」と思っていたのだが、著者曰く「2勝」の内の1勝は「俺の~」ではなく、中古ピアノの販売だったという。では残りの「10敗」はと言うと、オーディオ販売や飼料会社など事業の失敗による倒産や経営危機、労働組合の隆盛と言ったことを指している。

第3章「ブックオフがNo.1企業になれた理由」
ブックオフは1990年に神奈川県相模原市にて産声を上げた。1990年のスタートだとすると、来年で25周年を迎えるわけである。当時の古本販売は目利きがいて、目利きの観点から販売額が決まっていくいわゆる「どんぶり勘定」と言える世界だった。しかしブックオフの誕生により古本業界のスタイル・常識は一変した。古本のフランチャイズが誕生し、瞬く間に全国各地へと広がりを見せる立役者となった。そのメカニズムをブックオフのビジネスモデルを構築した本人が解説しているが、それ以上に2007年に退任した時の心境について綴っており、さらに著者の恩師である稲盛和夫氏がJALの経営再建に着手し始めた事が後の「俺の~」ビジネスの引き金にもなった。

第4章「稲森和夫氏の教えと、私の学び」
著者が稲盛氏を「恩師」と思い始めたのは1995年の時だったという。ブックオフが急成長の真っ只中にアリ、経営思想を構築するために経営者の本を読んだり、経営勉強会に参加したりしていたときの事である。その中で最も心の奥深くに刻まれた言葉が「利他の心」である。その言葉をもっと学びたいと思い、稲盛氏主宰の勉強会である「盛和塾」に入会した。それから盛和塾で経営者として大切なことを数多く学んだのだが、その中でも最も強烈な思い出として著者が週刊誌上で叩かれたとき、そしてそれが引き金となってブックオフを辞任するときのことである。その時の思い出について克明に描かれており、読んでいる私でさえも稲盛氏の言葉が聞こえるような感じだった。

第5章「「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」は進化する」
さて、「俺の~」の話に戻る。元々飲食業界の常識を真っ向から覆したスタイルなのだが、競争優位性を保つためにあらゆる事を行ってきた。その一例として「ジャズライブとのコラボ」である。他にも飲食業界だと優位なモノが出てくるととにもかくにも模倣したくなる所も出てくる。しかし真っ向から覆しているスタイルであるために「社長の道楽」とも叩かれる所もあったのだが、逆にそれを武器にしたことも競争優位性を保つ手段とした。

第6章「「物心両面の幸福を追求する」決意表明」
著者は稲盛哲学を学び、全力で実践を行っている。その一つとして「物」「心」両面の幸福を追求するのだが、これはお客に限ったことではない。「俺の~」を盛り上げるシェフ・ソムリエなどのスタッフも同様である。

第7章「業界のトップとなり、革新し続ける」
著者が目指すもの、それは株式公開から始まり、業界トップへと行くこと。そして業界トップに鳴り続け、常々革新し続ける事にある。もちろんそのためには日々「カイゼン」し続け、基板を強くしていくことが大切であるという。

「俺の~」ビジネスは私から見ても「革新的」と言いざるを得ない。それをブックオフという古本業界で旋風を巻き起こした人物が違う業界でも行っているのだから驚きと言える。もちろんビジネスモデルも評価されるべきだが、本書で最も印象に残るのが第4章の著者が最も影響を受けた人物・稲盛和夫氏との思い出の部分である。稲盛氏の学んだことが著者自らの血肉となり、業界そのものの変革と会社の隆盛の礎となっていると言っても過言ではない。