名誉毀損―表現の自由をめぐる攻防

日本国憲法第21条には「表現の自由」が保障されている。その一方で刑法230条第1項にて名誉毀損罪があり、他人の権利などを侵害・損害を被るような発言・行為を行った場合、懲役・禁錮・罰金刑が課される法律である。ほかにも名誉毀損は刑法だけではなく、民法上でも「不法行為」にあたり、損害賠償責任を負う側面も存在する。

法律を3つ提示したのだが、実際の所「表現の自由」と「名誉毀損」の線引きはいったいどこにあるのか、本書は「名誉毀損」の定義と議論について、実際に行われた裁判の判例とともに考察を行っている。

第1章「名誉毀損とは何だろうか」
「名誉毀損」は法律用語として、

「人の社会的評価を低下させる行為」(p.2より)

を指している。「社会的評価」が自分自身の価値や考え方、さらには他人からの評価を低下させるような発言や書き込みが、上記のこれに当たる。ネットでもどこかの掲示板サイトで特定の人物に対する「誹謗中傷」もまた「名誉毀損」にあたる。ネットというと、昨年取り上げた「スマイリーキクチ事件」が挙げられる。
「名誉毀損」は誹謗中傷を目的とした発言や書き込みだけではなく、真実の報道についてもそれに当たるとしている声もあるのだが、刑法における「名誉毀損罪」には免責事項が存在する。簡単に言えば事実が公共的であり、なおかつ真実のものであれば、他人をおとしめたとしても名誉毀損に当たらないという。

第2章「表現の自由をめぐる攻防」
その名誉毀損について、憲法上保障された「表現の自由」としばしば衝突する。事例として最も有名なもので15年前の森喜朗元首相の「神の国発言」における訴訟を取り上げている。首相のみならず、国会議員や芸能人が週刊誌に対して名誉毀損として民事的に訴訟を起こすケースもあるのだが、特に当時の現職首相が週刊誌に訴えたとして注目を浴びた。
ほかにも意見についての名誉毀損、さらには某掲示板サイトにおける中傷について取り上げられている。

第3章「判例の枠組み―「相当性」の基準とは何か」
第1章で書いた真実の報道が名誉毀損に当たり、実際に法廷闘争にまで発展した事件は少なくない。長年選挙に立候補した人物が経歴詐称したとして新聞に報道されたが、それが名誉毀損に当たり、民事訴訟になったケースもあるという。

第4章「名誉毀損の救済手段とは」
名誉毀損としての救済手段として有名なケースとして「北方ジャーナル事件」が挙げられる。この事件は昨年亡くなった元官房長官が北海道知事選中に、身に覚えのない疑惑を掲載されたことにより発売禁止を求め、裁判を起こした事件である。この事件における「名誉毀損」はどのように定義されているのか、そしてどのような判決に至ったのかを中心に名誉毀損に対して法的な力でもってどのようにして救済していくのかについて取り上げている。

名誉毀損における訴訟は今も昔もあるのだが、実際にメディアが多岐にわたっている現在では、訴訟になることは日常茶飯事と言っても過言ではない。しかし名誉毀損を議論する際に「表現の自由」がどこまで適用されるのかだが、これは永遠の課題と言っても過言ではない。隣り合わせとなる「名誉毀損」と「表現の自由」の線引きは、法律的にも議論され続けることと同時に、私たちも「リテラシー」という観点から考える必要がある。