人生における様々な経験や成果はある種「結晶」のようなものである。結晶となると美しさや輝きを放つのだが、それは経験や出来事の遭遇などによって決まってくる。もちろん日常のことからも結晶が生まれ、輝いていく。
本書はとある島を舞台にしているのだが、その島は多くのものが消滅していき、人も心もどんどんと失っていくような状態に陥った。さらに本書の主人公は小説家であったのだが、その小説を描くことでさえも失ってしまう。
なぜ記憶など見えないものが「失って」しまうのか。その背景にはある「秘密警察」の存在があった。秘密警察は誰にも悟られることなく、その島の人々が持っている「もの」「こと」を消滅させてしまう。しまいには人そのものも消滅させてしまう。しかし残ったものがある。それが一体何なのかを描いた一冊である。
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小川 洋子 講談社 2020年12月15日
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