妻はサバイバー

そもそも「サバイバー(Survivor)」とは、

生き残った人。生存者。「大辞林 第四版」より

と表している。しかし、「サバイバー」と言う言葉は「がんサバイバー」のように、がんなどの病気の治療中、あるいは治療後のリハビリを通して逆境に抗い続ける人のことも指している。そのためか様々な病気や出来事における「サバイバー」もできはじめた。

さて本書である。本書の著者は現役の朝日新聞記者であるが、著者の妻が摂食障害をはじめとした精神疾患にかかり、その闘病生活と、自らも支える姿が克明に映し出されている。

第1章「摂食障害の始まり」

摂食障害とは、

1.食行動の異常の総称。神経性食欲不振症,拒食・過食・異食など。食行動異常。
2.口腔咽頭の悪性腫瘍の術後,脳血管障害,筋疾患など様々な原因で食事がうまくできなくなる状態。口に入れた食物が胃に到達するまでの過程で問題が生じる嚥下障害と同時に起こる。「大辞林 第四版」より

とある。特に1.については身体的コンプレックスに伴う摂食障害が良く言われているのだが、著者の妻に起こった摂食障害は、また別の原因があった。摂食障害による過食・嘔吐を繰り返し、様々な病気を併発するようになり、入退院も繰り返した。

第2章「精神科病院へ」

摂食障害の根本として精神的な要因がある。その根本的な治療を行うために、精神科病院に入院することとなった。著者自身も当時大きな事件の取材もあり、てんてこ舞いの状況だったのだが、妻や家の状態がだんだんと悪化していくような様相だったという。妻の精神科病院の入院生活と身の回りの事件など数多く起こった。

第3章「アルコール依存」

そして精神科病院から退院し、通院状態になり快方に向かう化と思いきや、今度はアルコールに走るようになり、アルコール依存症を併発した。精神科病院の主治医が止めたにもかかわらずである。精神的な疾患、さらには栄養失調、そしてアルコール依存症。もはや日常的な生活ですらままならない状態の中で新しくカウンセリングを受けることになった。

そして自らも記者としての活動の中で、摂食障害について、さらにはPTSDや解離性障害についても知るようになった。またカウンセリングの中で妻の壮絶体験も触れるようになった。そしてその壮絶体験に触れたこと、さらには妻の闘病の中での体験で、ついには自らも精神科を受診することになり、休職することとなった。

第4章「入院生活」

アルコール依存症を脱するために断酒を行うことが原則である。しかしその断酒を行っていくとアルコールが抜けていき、けいれんなどが起こる。そのけいれんが激しくなり、再度精神科病院に緊急入院することとなった。その入院もまた精神疾患との闘いが繰り返された。

第5章「見えてきたこと」

精神疾患やそれに派生した病気により、認知症と診断された。その後は認知症というハンディを抱えながらも、少しずつ、治療を続けていっている。また認知症もまだ軽度であり、精神障害と身体障害も抱えた状態にあるが、治療を続けながら現在に至る。そのなかで精神疾患における社会の目と事件、さらにはメディアのあり方はどうなっていけば良いのかの展望も述べている。

本書は朝日新聞デジタルにて連載され、なおかつnoteにも全文公開で話題となったものが書籍化した一冊である。おそらく本書は書籍化に値するほど、かなりの衝撃を受けた一冊である。

それは記者の立場と言うよりも、本当の意味で当事者の立場で綴られたルポルタージュであり、なおかつ摂食障害、精神疾患、アルコール依存症との闘いを克明に綴られている。冒頭にも書いたように「サバイバー」は汎用性があるのだが、本書ほど現在進行形で闘っている「サバイバー」の姿がありありと映し出される一冊はこれまでなかった。

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