21世紀は「心の世紀」と言われて久しい。とりわけ企業に勤める会社員は「うつ」などの心の病にかかる人が増加傾向にあるのだという。
その理由はいったい何なのだろうか、労働状況が変化したから、不況だから、もしくは人間関係の崩壊から、と理由を挙げると枚挙に暇が無いほどであるが、本書ではそれらの原因と、これからの職場はどうあるべきなのかを提言している。
一の章「成果主義・能力主義の原風景」
今となっては「努力や苦労は報われるとは限らない」時代である。また「成果主義」「能力主義」が叫ばれ、採用する企業もでてきており、職場の人間関係もギクシャクしているのだという。新しくきた社員も育てる余裕や理由が見つからず、挙げ句の果てにはいきなり野放しにするようなこともあるのだという。
そのことにより早い段階で離職をする人も増えている原因にもなっている。
二の章「旧来からある職場の人間関係」
1985年に「男女雇用機会均等法」が施行されて27年。企業でも女性の管理職を採用する所もあれば、女性社長が活躍している企業もある。女性の社会進出は年々広がりを見せているのだが、「男性社会」が根強いせいかヨーロッパやアメリカと比べてもまだまだという声もある。
本章ではそのような「男性社会」の弊害をはじめ、職場いじめ、さらには社内派閥の弊害についても論じられている。
三の章「現代にみられる人間関係」
最近では「過労死」や「過労自殺」が増加の一途をたどっている。海外でも「KARO-SHI」と通じるほど日本企業社会の病巣の一つとして取り上げられている。
その過労の要因は長時間労働もあるのだが、そのほかにも仕事の一極集中や人間関係などもその要因として挙げられている。
四の章「派遣という労働体系のなかで」
労働体系は時代とともに変わる。「派遣労働者」もその労働体系の変化からきた「産物」と言えるのかもしれない。その派遣社員は正社員よりも労働状況が過酷であり、人間関係も正社員のそれよりもギクシャクしやすく「差別」されやすい環境にあることが多い。
本章ではその派遣労働者の現実を素描とともに表している。
五の章「成果主義を検証する」
本書の著者は現役の「産業医」であるが、「成果主義」そのものまで考えることの理由について著者なりの考えを示している。
それは自ら産業医としての経験もあり、そして著者自らみてきた「成果主義」の暗が映し出されている。
六の章「職場の求心力を守れ」
最近では「社内ニート」もあるとおり、新入社員時代に働く意欲を燃やしていた人たちが、急速に労働に対する意欲が無くなってしまっているのだという。ましてや人を育てない企業もあれば、人間関係がギクシャクしても助け船を出さないような状況があり、組織や企業としての体を成していないような状態もある。だからでこそ、組織とは何か、人間関係とは何か、仕事とは何か、など働くことに関して全員が議論をする、もしくは提言や考えることが大切であるという。
企業の財産はいったい何なのだろうか。売り上げても利益でもあるが、それ以上にそれを生み出す源である労働者、人材であるのではないのだろうか。人間関係が認めあい、信じあえるからでこそ、「働くことへの価値」は上がってゆく。もはや「生活のため」の労働ではなくなっており、労働者の「心」も無くてはならない財産である。「心の健康」は21世紀において一番無くてはならないものである、と私はそう思う。
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