伝説の灘校教師が教える 一生役立つ 学ぶ力

「灘校」といえば、日本でもトップクラスの東大合格者を輩出している屈指の進学校としても有名である。著名な方々の中には精神科医の和田秀樹氏はもちろんのこと、現在の神奈川県知事である黒岩祐治氏などいる。灘校というと、受験勉強のための詰め込み教育を行っているというイメージを持っているのだが、本書で紹介されている著者の橋本武氏の授業は一冊の本を3年かけて読む、という超スローリーディングの授業を行っているとして有名であるが、ほかにも様々な授業が行われている。本書は自ら行ってきた授業をもとに、学ぶことの楽しさ、そしてそれが社会への教養や個性を引き出させるための考え方について伝授している。

第1章「「学ぶ」ことは遊ぶこと、「遊ぶ」ことは学ぶこと~再び生徒と向き合って感じた学びの基本~ 」
みなさんは「学ぶ」事についてどう思っているのだろうか。私は知ることの楽しさを培うことができる機会と思っている。もちろんこの書評にしても、おもろい本との出会いによって自分自身を成長することができる。しかし著者は学ぶことそのものが「遊び」であるという。それは「当たり前」のことに疑問を持ちつつ、知ることのおもしろさを見出すことによって、「学ぶ」ことを「遊ぶ」ことにする。その「遊ぶ」は試験で学ぶような事ではなく、本当に知りたいこと、本質を知ることになるので横道にそれる必要があるという。

第2章「生きる力、学ぶ楽しさのもととなる国語力~「読む」と「書く」のバランスが肝心~」
「生きること」は働くこともそうだが、学ぶこともまた「生きること」にある。中勘助の「銀の匙」の授業で、生きることによって必要な事を教えていったのだが、それまでは数多くの本とであって、ようやく会ったのがその本だった。それまでには多読・乱読を繰り返しての出会いだったため、スローリーディングの授業の中にはそういった「多読」「乱読」も関わっていた。

第3章「教えることで見える学びの本質~個性を引き出す子どもたちとのぶつかり合い~」
著者の「銀の匙授業」は昭和20年代頃から長年授業をし続けながら、完成させた。著者は未完成の意識は持っているかもしれないが、一生モノの学力を身につけるためにどうしたらいいのか試行錯誤を繰り返しながら、子どももそうだが先生もまた体験した事を通じて「銀の匙授業」に昇華していく。

第4章「日常にあふれる「学び」「気づき」への横道~未来の大人たちに知っておいてほしいこと~」
「学び」や「気づき」は学校の授業の中だけではないし、日常生活にも様々な所に存在する。もちろん「銀の匙授業」にも横道となるような学びも存在する我、それこそが学力と言うよりも「教養」としての血肉になる。また本章では教育問題で話題となっている「ゆとり教育」についての言及も行っている。

第5章「つまり人生とは学びの連続~100年間積み重ねてきた生きる力の軌跡~」
著者はある目標を掲げていた。

「120歳の大還暦まで生きること。」(p.192より)

100歳を超えてもなお、まだまだやりたいことが存在し、好きなことをやり続け、そして学び続ける。そのことで自ら成長し続けていった。その道はなくなるまで続いた。

著者の橋本氏は昨年の9月にこの世を去った。101歳の大往生と呼ばれる人生であった。著者の人生は「銀の匙授業」と共にあり、その授業の過程で著名な方を多く輩出した。もちろん趣味を通じての人との縁もでき、人によってささえられ、成長していった人生だった。「銀の匙授業」を通じて培ってきた心と学びは今、日本の根幹を成している方々によって受け継がれていると言っても過言ではない。