いつか深い穴に落ちるまで

「深い穴」という言葉がどれだけ意味深なのかということを本書でもって感じさせられた一冊である。本書はまさに「深い穴」というのが物理的に明示されているだけでなく、本書の背景そのものにある所での暗喩としても使われるため、重要なキーワードと言っても過言ではない。

舞台はとある企業であるのだが、サラリーマンであったり、官僚であったりと、様々な人物たちが織りなすのだが、そこには戦後の日本社会システムが映し出されているようでいてならなかった。

特に企業については一見ムダと思われるような事業とあるのだが、確かバブルになった頃における過度なゼネコン投資や事業の推進が連想される。小説というとフィクションである一方で、ある種の皮肉や風刺といった要素があるのだが、本書はそれらをこれでもかというくらいユーモラスに映し出している。またそれらのことが「深い穴」の意味を織りなしていくのだから面白さと魅力が強い。