世を観よ

本書の著者はシテ方観世流の能楽師であり、3歳から初舞台を踏んで、77年もの芸歴を持つ。ちなみに著者はめでたく傘寿を迎えた。その傘寿を迎えるにあたり、日本と日本文化、身辺のこと、そして自らのホームグラウンドである能についての自らの見地を綴っているのが本書である。

一.「日本の四季」
日本には「四季」がハッキリとしており、四季折々の情景や食事などが楽しめることも日本らしい特徴である。その特徴を能の作品を引き合いに出しながら取り上げている。

二.「日本文化と世界」
日本文化は長い歴史のなかで紡がれ、その中で絶えず変化が起こり続けている。その紡ぐ、あるいは受け継ぐことは私たち日本人としての義務なのかもしれない。もっとも日本文化は世界的にも有名であり、好意的に受け入れられていることが多くある。その日本文化と世界との比較を取り上げている。

三.「美味しい食の話」
日本には四季折々の季節があることは一.でも書いたのだが、そこから生まれる食もまた独特である。2013年に無形文化遺産に認定されたことが証明として表れているほど、ただ食べることだけでなく、四季を味わうことができる魅力があり、本書も春夏秋冬の食についてを取り上げている。

四.「お酒は文化である」
芸事と酒は切っても切れないものと言われているのだが、本章を読むにあたり、著者の酒は酒と情景を愉しんでいる様に思えてならない。酒の種類によってどのように味わうのか、酒によって異なっており、異なっているなかでどう味わったのかを事細かに綴られている。

五.「世の中を想う」
世の中は「世知辛い」「生きづらい」と言われて久しい。その中で著者は今の世の中をどのように見ているのか取り上げている。

六.「身辺雑感」
身辺でどのようなことが起こったのか、その日常について自らの見地から綴っている。

七.「旅に想う」
能を演じるにあたっては全国を飛び回ることもしばしばある。所々で思い出があり、本章ではそのことについて取り上げている。

八.「能を舞う」
著者にとって「能」とは何か、そして能を演じることとは何か、長い芸歴のなかで見つけた「解」を本章にて提示している。

能楽師としての日常や考え方、そして芸事に関してのことなどを余すところなく綴られたエッセイ集であった。日本の伝統芸能のを担う人として日本をどう見ているのかというのがよくわかる一冊であった。