文化が織りなす世界の装い

元々人類には「装い」と言ったものがなく、「文化」という概念ができはじめたあたりから身を守るものとして「装い」、いわゆる「衣装」ができあがった。だんだんと時代が立つにつれ、その国、地域における象徴として現れ、集団として、さらには「美意識」としての「装い」ができはじめた。「装い」の歴史と世界を考察していくとどのような物が見えるのか、本書はその「装い」を様々な観点から論考すると共に、座談会も行った一冊である。

・座談会I「装う素材と技術の発見と伝播――なにを用いて、どう加工し、いかに染めるのか」
「装い」とひとえに言っても様々な役割を持っている。「装い」の概念ができはじめた頃は「身を守る」のみの概念だったのだが、冒頭でも述べたように様々な要素が出てくるようになり、そのことにより「装い」の素材、スタイルも多様化して行った。その中でも素材・加工といった変遷について取り上げているのが本章である。

・論考「人はなぜ装うのか──「装い」の起源と多様な展開からみる」
「装い」の根源とそこから見た展開はどのような物であった野か、歴史・文化の観点から取り上げている。

・論考「更紗がつなぐ装いの文化──インドからヨーロッパ、アフリカ、そして日本」
「更紗(さらさ)」とは、

「1.鳥獣・花卉(かき)など多彩な模様を手描きあるいは木版や銅板を用いて捺染(なっせん)した綿布。インドに始まり、ジャワのバティック、オランダ更紗などに影響を与えた。もとインドやジ「―模様」
 2.花の色で紅白うちまじって1.に似たもの。
 3.更紗形の略」「広辞苑 第7版」より)

とある。先述の1.の所にて言及したように、インドに始まり、西欧に伝来されたものであるのだが、紀元前2500年ごろ、インダス文明があると判明したモヘンジョ・ダロの移籍から出土されたことから、その文明の時代からあったとされている。ちなみになぜ更紗から追ったかというと、それが装いとしての「布の利用の起源」だからであるという。

・座談会II「地域性・社会性の表象としての衣服――いつ、どんな場面で、なにを、いかに纏うのか」
「装い」は時代が変わり、地域や国によって、いわゆる「民族衣装」と呼ばれるものまで出てきた。他にも儀礼において、重要な役割を担うものまででき、いわゆるTPOにおける装いも出ているのだが、それがなぜできたのかを論じている。

・論考「伝統ある絞り染め布をファッションとしてまとう──装いからみる現代インド社会の変容」
民族衣装でも、現代のファッションに合わせてカスタマイズしていくといったことを先日ニュースで見たことがある。民族衣装にしても、儀礼衣装にしても様々な「変化」があることは否めない。それは日本にしても、本章にて取り上げているインドにしても例外ではない。

・論考「装いからケニアの現在を読み解く――プリント更紗と生活環境を手がかりに」
装いとしての「布」の源となった「更紗」であるのが、本章ではケニアにおいて更紗はどのようなものが使われているのか、その現在を紐解いている。

・論考「伝統と近代のつむぎかた──オーストラリア先住民アボリジニの場合」
オーストラリア先住民として「アボリジニ」がいるのだが、そのアボリジニにおける「装い」も伝統と変化に富んでいる。その変化と社会性、そして民族性も併せて論考している。

・座談会III「現代の『装い』にみる宗教性・ジェンダー・個別化──宗教間・地域間・男女間・時代間の比較から」
「装い」は身を守るものから「主張」と言ったものにもなっているのかもしれない。その「主張」とは本章のタイトルであるジェンダーや宗教、地域といったものまで様々である。文字通りの「多種多様」となっていった装いはどのように変化していき、そしてこれからどのように変化していくのか、そのことを取り上げている。

・論考「インドを表象する装いの変遷──都市部の観察からみえる男女差」
インドは様々な「装い」によって表現をしている。それは地方にしても、男女のことにしても、である。本章では実際にインドの都市部を調査したことを論じている。

・論考「『加賀友禅』という文化表象──誰がブランドを生み出したのか」
石川県の伝統工芸品である「加賀友禅」、その伝統的な手法はどのようにして「ブランド化」していったのか、そのことを論じている。

文化や歴史、そして国や地域、さらにはジェンダーなど歴史・文化・社会の象徴の一つとしてあげられる「装い」。それを掘り下げていくと、様々な観点における「根源」が表されているように思えてならない。その一つの側面を本書によって垣間見た。