アルテミオ・クルスの死

本書は今から8年前に逝去したメキシコの作家カルロス・フェンテスの代表作の一つであり、ラテンアメリカ文学のブームの火付け役となった一冊である。

上梓されたのは1962年であり、それが日本語訳されたのはその23年後にあたる1985年。それから何度も翻訳され、本書の様に昨年に再翻訳された。

本書はメキシコ革命の経験を経て、経済界を生き抜いた男アルテミオ・クルスの生涯を描いた一冊である。そもそも本書が描かれている時代は第二次世界大戦の真っ只中である1941年のこと。ラサロ・カルデナスが大統領として行った経済政策により経済的な基盤が安定しつつあり、なおかつ連合国側として戦争に参加するようになっていった。その最中アルテミオは経済的にも軍事的にも「戦争」に巻き込まれていた。その巻き込まれた中で描かれる人間模様は、メキシコならではの風土や人間性が色濃く映っており、なおかつ2つの「戦争」によって翻弄され、やがて死んで行く姿が多くの人物との関わりが重なり合い、「死」の意味がこれでもかと言うほどに重要視されるように見て取れる一冊であった。