Keyの軌跡

「Key」という会社は今となって「泣きゲー」と呼ばれるジャンルに特化しており、さらには全年齢のものが多くあるのだが、かつてはR-18指定の作品の方が多く見られ、CLANNADになってからは全年齢ものも増えてきた(今も一部の作品はR-18指定のものもある)。

またKeyを原作にした作品の多くはアニメでもその泣きゲーとしての魅力を発揮しており、視聴者を感動させると言ったものも多い。ではそのKeyの作品はどのように変遷していったのか、その歴史を辿っているのが本書である。

第一章「Key前史―『MOON.』と『ONE~輝く季節へ~』をめぐって」
元々「Key」のブランドの根源と言えるのが美少女ゲームメーカーの「ネクストン」のブランドに「Tactics(タクティクス)」がある。そのTacticsで生み出されたゲームとして本章のタイトルである。本書でも取り上げている樋上いたるや麻枝准などもTactics出身である。

第二章「Key始動―『Kanon』という奇跡」
そのTacticsの多くがネクストンを離れ、ビジュアルアーツへと移籍し、1998年に「Key」というブランドが誕生し、その第一作目として「Kanon」が誕生したのだが、いきなり恋愛アドベンチャーゲームとしての頭角を表した。ちなみにKanonは2002年と2006-2007年の2回アニメ化されている。

第三章「『AIR』―彼女が選んだ幸福の形」
本書の表紙にある少女は本章で紹介する「AIR」のヒロインである神尾観鈴(かみお みすず)である。ちょうどAIRのゲームの箱もまた同じような絵であったことを今も覚えている。2000年に発売され、こちらも瞬く間に人気を集めた。AIRの特徴としては篇が3つに分かれており、それぞれ異なった「泣き」の要素が詰まっているのも特徴としてある。2005年にアニメおよび映画化された。

第四章「奇跡の価値は―『CLANNAD』、『智代アフター~It’s a Wonderful Life~』」
ビジュアルノベルにおいて最も華やいだ2004年に「CLANNAD(クラナド)」が生まれた。発売当初はこれまでの作品とは異なり全年齢での発売となった。少年少女の恋愛、家族の愛、そして友情などを描いた泣きゲーとして知られており、大ヒットした。CLANNAD本編だけでなく、その後の物語を描く「AFTER STORY」もあれば、サイドストーリーとしての「智代アフター」についても取り上げている。

第五章「『リトルバスターズ!』―虚構の楽園とピエロたち」
CLANNADが出た後は小規模な作品を生み出していった。その一つとして前章の「智代アフター」もあれば、Webアニメやアニメ映画などにもなった「planetarian ~ちいさなほしのゆめ~」がある。
そして2007年には「リトルバスターズ!」が発売され四たび大ヒットとなった。もっともKey作品としては珍しく「友情」に特化した作品である。もちろん恋愛要素もあるのだが、どちらかというと野球や友情の要素が色濃いイメージである。元々はゲームだが、漫画やアニメなどへと発展して行ったメディアミックスとしても展開した。

第六章「Keyとアニメーション―京都アニメーションの美学、『Angel Beats!』、『Charlotte』」
Keyは原作ゲームのアニメ化だけでなく麻枝准を通してオリジナルテレビアニメにも進出していった。2010年4月~6月に放送された「Angel Beats!」や2015年7~9月に放送された「Charlotte」がそれにあたる。いずれも製作会社はP.A.WORKS(ピーエーワークス)である。
では本章のサブタイトルにある京都アニメーションはというと、AIRやKanon(2006-2007年版)、CLANNADの3作品がアニメ化されたときの製作会社であるのだが、泣きゲーとしての美学が、京アニの美学にも通じているという。

第七章「『Rewrite』―進化への意志を示すもの」
2011年に発売された「Rewrite」は過去の作品と同じく恋愛アドベンチャーゲームであるのだが、そこには過去のゲームとは大きく異なり、バトル的な要素もふんだんに盛り込まれているだけでなく、「CROSS†CHANNEL」や「人類は衰退しました」で有名な田中ロミオや、「ひぐらしのなく頃に」で有名な竜騎士07がシナリオを手がけている。

第八章「Keyの音楽―物語と音の結びつき」
Key作品が織りなす音楽もまた特徴的である。物語と音楽は結びつきが強いのだが、その中でも音楽表現はもちろんのこと、歌詞にも物語と密接に関わる要素があり、親和性が高い。なぜ高いのかについて考察を行っているのが本書である。

ブランド立ち上げの時から「泣きゲー」の大家として扱われており、今もなお根強い人気のあるKeyは立ち上げメンバーの樋上いたるが2016年に退社しており、また新作もすくないがらも生み出してはいる。もっともKeyが生まれてもう22年経つと言うことは、それ程時間が経つのが早いと思ったのと同時に、私自身も中学生のころから(もちろん全年齢の方で)親しんでいたことを考えると、どれだけ長らく愛されてきたのかが自分自身でも思ってしまう。その軌跡はまさに「奇跡」と呼べるかもしれない。