西洋美術とレイシズム

よく言われる「美術」となると、必ずといっても良いほど西洋美術を連想する。その美術作品の中には、当時の政治背景はもちろんのこと、連想したものの考え方などが反映される。決して「美」だけを表しているだけでない。

そのため本書のタイトルにある「レイシズム(人種差別主義)」もまた表現を行っている部分もある。今となっては反レイシズムの動きが活発化しており、むしろレイシズムな表現はタブーとされているが、本書で取り上げる美術作品は身分の差はもちろんのこと、人種の差はごく当たり前にあった時代である。

第1章「呪われた息子―ハムとその運命」

とくに中世~近世のヨーロッパでは人種差別が当たり前に合っただけで無く、隣国の憎悪の衝突がごく当たり前にあった時代である。特にアフリカなどの黒人は当時奴隷貿易の対象として、扱われ、ヨーロッパには奴隷として働かされるといった風潮があった。その奴隷の象徴としての絵画がいくつも存在している。

第2章「ハガルとイシュマエル―追放された母子」

人種差別は何も「黒人」や「イエロー」といった肌の色ばかりではない。タブーとされている言葉に「ジプシー」もある。これはヨーロッパの中で移動しながら生活を行っている民族のことを表している。宗教自体もキリスト教やイスラム教などおり、国によっては「ロマ」「シンティ」と言う言葉でも用いられる。そのジプシーを取り上げている絵画もあれば、「差別」は「宗教」にも及んでおり、イスラムに関しての差別を描いた絵画も存在する。

第3章「賢者と聖人―キリスト教とレイシズムの諸相」

そもそも宗教自体が差別の象徴という意見もあるのだが、必ずしもそうではない。むしろ宗教を背景とした国々、もしくはその指導者や民がそれを引き起こしている。その差別を象徴とするような美術作品を取り上げている。

勘違いしないでほしいのは本書はあくまでレイシズムを礼賛しているわけではなく、中世~近世の美術作品の中にもレイシズムは存在していたことにある。描かれた当時はごく当たり前に身分制度や人種差別といったものが存在していた時代である。その時代の美術作品にどのようなレイシズムがあったのかがよくわかる一冊である。