毛―生命と進化の立役者

生物には様々な「毛」が存在する。もちろん頭の毛ばかりではない。

もっとも「毛」は生命を維持する、あるいは活かすための重要な要素である。なおかつ人間のみならず様々な毛を持っているのだが、役割も毛によって異なる。どのような役割を持っているのかも含めて本書にて取り上げている。

第1章「孤独な戦士「精子」」

細胞には「べん毛」と呼ばれるものがあり、進化を行う中で見えないものの中核的な働きを持つ。他にも多くの動物のオスから出る「精子」にもそれぞれの「毛」があるのだが、その毛はどのような役割を担うのかも取り上げている。

第2章「体内の毛なしに生きられない」

体内外関わらず、どこにも「毛」は存在する。もっともその「毛」には細胞とのコミュニケーションのツールになることや、感覚のアンテナになる。決して鬼太郎のような妖怪アンテナまでではないが。特に本章のタイトルにある「毛なしには生きられない」は体内のことを表しており、けっして体毛を表しているわけではないことも言及しておく必要がある。

第3章「毛のルーツは生命のルーツ」

もっとも前章で取り上げた冗談が本章にも言及されており、さらにはオバケのQ太郎にまで言及しているのは驚きである。

毛のルーツは進化にもつながっており、何本かあることによって進化のあり方も変わってくる。その言及を見ると、歌舞伎の名跡の中で、現在襲名が延期状態となっているが、十一代目市川海老蔵が、後に十三代目市川團十郎白猿を襲名する予定である。この「白猿」もまた歴史があり、五代目團十郎は最晩年に「市川白猿」を名乗り、七代目・八代目團十郎は俳名にも使われた。由来は五代目團十郎が「猿は人間に毛が三本足りない」となぞらえて、「父を含めた祖先と比べて足元にも及ばない」意味をなしている。「毛」の喩えであるが、本章の進化にも通ずるものがある。

第4章「美しいナノ構造のひみつ」

細胞における「毛」は顕微鏡でもなかなか見えないほど小さい。単位も「ナノ」にもなるほどである。しかしその「毛」は美しくつくられている。美しいばかりではなく、進化のための重要な「構造」があるという。

第5章「波打つ仕組み」

細胞にある毛は収縮や滑りなどの運動によって、波打つことが往々にしてある。なぜ波打つような動きをしているのか、また波打つことは何を意味しているのかを取り上げている。

第6章「細胞の毛は環境問題につながっている」

スケールが多きのか小さいのかわからないのだが、そもそも地球上には様々な生物が住んでいる。その生物の中には細胞があり、細胞の毛によって進化の良し悪しが見えてくる。環境問題の中には生態系の破壊もあるのだが、その生態系の変化・破壊の中に細胞も含まれていることを言っているのではないだろうか。

本書はあくまで細胞や体内にある「毛」のことを意味しており、体毛や頭の毛のことばかりではない。見えない部分の「毛」は人類はもとより生物の進化に役立てられているのであれば研究の余地があり、なおかつ生物のことについてさらに面白味を持たせる一冊と言える。