今年の3月にWBC(World Baseball Classic)が開催され、野球大国の一つであるドミニカが初優勝を決めた。日本は前回・前々回と優勝したが、今回は準決勝でプエルトリコに敗れ、優勝を逃した。ただ、私的には今回ほど「WBCは面白い」という印象はなかった。というのは前回・前々回と同じような国との対戦ばかりで優勝していたためであり、今回はヨーロッパや台湾、そして中央カリブ諸国との戦いと一度も戦ったことのない国々との対決もあった。欲を言えばドミニカの対戦も見たかったが。
そのWBCの中で感動を呼んだのが台湾との対戦である。延長10回までもつれ込み、ようやく勝利を収めたのだが、その試合終了後、台湾のファンは日本に対して感謝の言葉を述べたのだという。そのシーンは瞬く間にインターネット上に広がり、話題を呼んだ。
その台湾は1910年から日本の統治下に入り、様々な改革を起こした。清王朝の下では伝染病や麻薬などが蔓延り「四害(阿片、土匪(その土地に住みついて害をなす集団)、生蕃(原住民)、瘴癘(風土病))」と呼ばれていた場所を、大陸以上に発展した国に変貌させた。その名残として日本語や日本人の像、そして「日本精神(リップンシェンチェン)」も残っている。その統治下の記憶が薄れている今でも。
本書はその台湾になる「日本」の遺産を建物、精神、言葉に分かれて紹介している。
第一部「台湾に生きている「日本」を歩く」
まずは「建物」である。「建物」といっても建造物だけではなく、石碑、銅像や石像、蒸気機関車、神社などを紹介している。
第二部「台湾人と日本人―日本統治時代の絆を訪ねて」
台湾が日本の統治下になってから「四害」を脱し、様々な「インフラ」を整え、中国大陸以上に発展した国に変貌させた。それは鉄道や建造物だけではなく、「文化」もまた同じように発展した。それを象徴づけたのが李香蘭(山口淑子)の「サヨンの鐘」である。
第三部「台湾の言葉となった日本語」
台湾には中国語だけではなく、台湾独特の「ビン(門構えに「虫」)南語」と呼ばれる「台湾語」がある。その「ビン南語」の語源となったのは「日本語」であるものも少なくない。本章ではその「ビン南語」の中から日本語が語源とされているものを辞典で紹介している。ちなみに「ビン南語」は言語化されているが、文字化はされていないため、表記は存在しない。但しその分発音の注意点は詳細に記載してある。
東日本大震災では10億円以上の義援金を出した。これは統治下への感謝もあれば、14年前に起こった「台湾大地震」における日本の対応への感謝もあったのだという。その感謝は今でも続いており、私たち日本人はこの恩に対し感謝を行いつつ、今後も良好な関係を続けていくことが大切である。本書は紀行文であるが、そのことを暗に伝えているのだと思う。
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