黒岩重吾のどかんたれ人生塾

今年で30歳という節目を迎え、私自身も書評をますます進めていきたいと思う。もちろん書評家であるため、書評とは何かというのを考え、追いかけながら前へと進みたい。

そこで今回は、私の中で思い出に残る一冊を一つ取り上げる。私が高校生だったころ、今も同じように活字の本は読んでいたものの、今ほど多くは読んでいなかった。何を読んでいたのかというと漫画雑誌の方が多かったと思う。中でも「週刊ヤングジャンプ」という本がけっこう好きだったことを覚えている。その中で連載したのが本書で取り上げる「どかんたれ人生塾」である。今は亡き作家・黒岩重吾氏が自らの人生をもとに人生相談を行っているのだが、頓珍漢な質問をしたり、ダメな人生を送ったりしていくと、黒岩氏は文章を通じて「どかんたれ!」と罵倒する。「どかんたれ」とは、

「関西弁の「あかんたれ」に「ど」をつけた塾長・黒岩重吾の造語である。
どうしようもない奴、どアホを意味する」(本書目次より)

という。そういった言葉が印象的だっただけではなく、作家として、人間として、職業人として大きな指針となったのが、その黒岩重吾氏の言葉だった。そのこともあり、誕生日である節目に、本書を取り上げようと至ったのである。

第1章「戦え!」
本書では様々な人生相談について「戦うこと」「愛すること」「進むこと」「生きること」と4つに分けている。本章では「戦うこと」、それは人生についても、男女関係についても、チャレンジについても、ケンカについてもである。
「戦う」と言っても戦う姿勢を持つこと、そして実際に戦うことについての悩みを打ち明け、それに対して黒岩氏が答えるところである。
本章で最も印象的だったのが、感情のない人間、人生をネガティブに決めつける人間についてことごとく「どかんたれ!」と罵倒しているところにある。

第2章「愛せよ!」
男女愛についての悩みなのだが、もともと青年誌であることから愛情に関する下世話な悩みも数多く存在する。どのような言葉なのかはさすがに卑猥なのでここでは取り上げられないのだが、下世話な悩みについても面と向かいながら、時としてもっと下世話な回答をしている。

第3章「進め!」
「進む」ことは人生においての行動もさることながら、第2章で取り上げられたような恋愛に関することも本章にて取り上げられているのだが、中でも印象に残ったのは「作家の門戸」についてである。作家として本を書いてみたいと悩んでいる方がおり、その悩みに対する回答の中に著者自身が作家になった理由、そして作家としてのあるべき姿が描かれている。

「書いて書いて書きまくれ。ただし才能がないと人を感動させることはできやしない」(p.143より)

「世に出たからといって安穏としてはいかん。血反吐を吐くくらいの努力を続けていかないと才能を大きく開花できないし、何十年も作品を紡ぎ続けたりできん。公平でクリアな世界だが、厳しい世界でもあるんや」(p.144より)

この2つが私の心にグサリと突き刺さった。

第4章「生きろ!」
最後は人の「生」と「死」について触れた上で、どのようにして生き抜くべきかということについて説いている。その中でも「教育」や「自由」は戦争を体験した著者だからでこその答えが書かれており、私の中でも大きな刺激となった。

本書は「週刊ヤングジャンプ」の中で連載されたものの中から選りすぐりのものを取り上げられているため、私が印象に残った悩み相談についても取り上げられたものもあれば、残念ながら取り上げられなかったものもある。それでも、10数年前に連載を観た時を思い出しつつ、今まで知り得なかった悩み相談にも出会うことができたし、なおかつ自分自身の人生の糧となった所を確認することができた一冊である。