欲望する「ことば」 「社会記号」とマーケティング

私自身、書評家であることから「言葉」を文面で紡ぐことが大いにある。もっとも自分自身も言葉に関して敏感であるのだが、保守的な側面と言うよりも、新しい言葉を見つけたがる。そのせいか新しい言葉を見つけたがるという「欲望」がある。そのことばにおいてマーケティング的な要素、あるいは社会におけるメッセージなどありとあらゆる意味を持つ。本書はその「言葉の変化」と社会的な意味合いについて取り上げている。

第一章「ハリトシス・加齢臭・癒やし・女子―社会記号の持つ力」
新しい言葉の中には「若者言葉」なるものも存在する。その「若者言葉」を中心とした新しい言葉の中で一般化した言葉を総称して「社会記号」と著者は定義している。もっとも社会記号になるような言葉は時代背景によって変化しているものに順応してできた言葉としてあるのかもしれない。
それはさておき、「社会記号」になるような言葉には「ポジティブ」なものから「ネガティブ」なものまである。しかしながら、その社会記号によって、新たな商品が生まれたり、マーケティングを行うためのメッセージに使われるなど、経済・社会双方で力を持っている。

第二章「いかに社会記号は発見されるか―ことばと欲望の考察」
そもそも「社会記号」が生まれる背景として「欲望」がある。それは「ニーズ」と呼ばれる志向を見出し、言葉が生まれ、広まりを見せていき、マーケティングの観点から新しい風穴を開けることから意味しているのかもしれない。

第三章「ことばが私たちの現実をつくる―社会記号の性能と種類」
社会記号には8つの機能があるという。

1.自己確認
2.同化
3.寛容
4.報道
5.市場
6.拒絶
7.規範
8.課題(p.96より)

一つの社会記号からポジティブ・ネガティブ、さらにはニーズをくみ取るといった要素があるにも上記8つの機能によって成り立っている。新しく出てきた言葉から社会記号となり、社会へとしんとしていくのか、その進化にもいくつかの「類型」がある。

第四章「メディアが社会記号とブランドを結びつける―PRの現場から」
もっとも言葉を流行するにしても、「社会記号」になるにしても、メディアの力が必要になってくる。そのメディアはどのようにして社会記号を見出し、作っていくのか、そして社会記号を「ブランド」へと昇華して行くのか、そのことについて取り上げている。

第五章「なぜ人は社会記号を求めるのか―その社会的要請」
そもそもなぜ人は「社会記号」を求めたがるのかを問うているのだが、社会には必ずといってもいいほど「変化」が生じる。その変化の中に生まれる言葉は社会的にはどのような背景があるのか、そのことを取り上げている。

第六章「対談 誰が社会記号をつくるのか」
「社会記号」自体は、具体的に「誰が」つくったのかの定義はない。ある人が発したものが、メディアや社会情勢を通じて変化をしていき、なおかつコントロールができないものなのだという。しかも社会記号はメディアも作られる一助になっている所にも、日本の特殊性があるとも指摘している。

社会記号とはなんぞやと思ってしまうのだが、毎年流行語が生まれ、流行語の中には一般的な言葉として扱われることもある。そもそも広辞苑も不定期に(最近では10年あたりの周期で)改訂されているのだが、その改訂の中には社会記号となり得た言葉も収録され、もはや「死語」となった言葉は広辞苑の収録から外れる。そういった循環が起こる背景には社会の変化と欲望があるのではないかと本書を読んで考えてしまう。