渋谷のすみっこでベジ食堂

東京の渋谷というと、私は幾度となく行ったことがあるのだが、まさに「都心」や「都会」と連想してしまうほど栄えた所である。その渋谷の隅っこにフリーターから編集者になった人がベジタリアン食堂(以下:ベジ食堂)を開店した。その著者がなぜベジ食堂をオープンさせたのか、そしてオープンまでの道のりはどうだったのか、そのことを取り上げている。

第1章「ふらふらしていた日々が、店への憧れを育てた」
学生から働き始めた頃までは本当の意味で「ふらふら」していた日々だったという。しかもその「ふらふら」は海を越えてアメリカ・ニューヨークにまで及んだ。

第2章「なりゆきで編集者に、やがて自営業者になった」
人生は何が起こるのかわからない。ふとした出会いから始まることもある。会る知り合いから声がかかり、編集者をつとめるもわずかな期間で退職し、フリーとして働くこととなった。そのフリーの仕事でも「何か違う」と思えるようになったという。

第3章「ヴィーガンとの出会いとベジ料理への目覚め」
ヴィーガンとは、動物を接種しないことを表しており、その動物を接種しない考えのことを「ヴィーガニズム」という。有名どころではF1チャンピオンを5回獲得し、これから6回目のチャンピオンになろうとしているルイス・ハミルトンが2017年からヴィーガンになったことは有名な話である。著者が出会ったのはアーティストであり、出会いを通じてベジ料理に目覚めることとなった。

第4章「何もかもが手探りの中、ベジ食堂をオープン」
ベジ食堂をオープンするまでは、まさに「手探り」と言う言葉を地で行くようなものだった。飲食店を開店する上で避けて通れない資金調達、物件探しから、各所の許可、さらにはレイアウトづくりなどやるべきことは数多くあった。

第5章「味、メニュー、雰囲気―他店にはない僕達流のベジ食堂作り」
もちろんベジ食堂ならではの味やレシピ、さらには店の雰囲気などを決めていく必要があったのだが、著者ならではのこだわりを持ち、形にすることができたという。

第6章「広がっていった店の評判とその反面でのトラブル」
開店してから珍しいベジ食堂だけあり、かつ雑誌にも掲載され、その反響も助けられてか、繁盛していった。しかし繁盛していく内にいくつものトラブルにも巻き込まれた。そのトラブルの様相はまさに今の飲食店が抱えているものを象徴づけている。

第7章「リーマンショックで大打撃。それでも何とか切り抜ける」
ベジ食堂が軌道に乗り出した時に、リーマンショックが起こった。2008年の話である。経済的な打撃を受けて、倒産をしたり、事業縮小を余儀なくされたりするなどが起こったのだがベジ食堂も売り上げが落ちるなどの打撃を受けた、さらには家庭面では子育てに追われるようなことがあるなどのピンチが続いたのだが、何とか切り抜けた。

第8章「家族、店、社会、価値観の変化と3・11の衝撃」
リーマンショックの一難を切り抜けた後、身の回りの変化が起きたこともあり、その対応にも奔走した。その奔走の中で起こったのが「東日本大震災」である。震災を通じて価値観はどのように変わったのか、そして震災当時はどうであったのかを克明に記録している。

第9章「一進一退の店経営。そんな中、目標を見失う」
経営としても変化の中ギリギリの中で経営が続いた。そんな時に店の売却危機から妻のがん、スタッフの流出などの一難が立て続けに起こった。一難に対して店や自分自身を変化するとによって切り抜ける日々が続いた。

第10章「子どもとの生活と仕事、そして未来へ託すこと」
妻を失い、子どもたちと自分だけの生活になったときに、レシピ本を作ることとなった。そのレシピ本をつくるまでのエピソードとこれからのベジ食堂について取り上げている。

記載するのが遅くなってしまったのだが、本書で取り上げているベジ食堂は「なぎ食堂」であり、渋谷の鶯谷町にある。ちなみに本書の終わりの所には武蔵小山平和通りにもあると記載があったのだが、今年の1月27日で閉店した。渋谷の片隅にある小さな食堂がどのように生まれ、育っていったのか、その軌跡が詰まった一冊である。