死ねない時代の哲学

人は遅かれ早かれ「死ぬ」運命にある。その死ぬ運命から逃れることはできないのだが、自ら死を選ぶこと自体がタブー視されている。もっとも自分の人生は自分で決め、なおかつ自身の死も選ぶという人は今昔では考えられている。しかしながら特に自ら死に場所を選ぶこと自体が「家族が反対しているから」「周囲が許さないから」という理由で死ぬことが許されない。もっとも延命治療を拒むことや尊厳死に関しての議論も行われているが、なかなか「死ねない」世の中をどのように考えたら良いか、本書はそのことについて取り上げている。

第1章「なぜ「死ねない」のか」

日本は超高齢社会とも言われるほどの時代になっている。そのせいか定年が60歳から65歳になる所もあれば、70歳定年、さらには定年自体を撤廃する所まで出てきているほどである。かつては「長寿」は縁起が良いものとされてきたのだが、その長寿自体がネガティブに捉えられることも少なくない。また長生きをしていると、何かしらの病気を抱えるようになる。その中での医療のあり方についても考えるべき議論があるが、その中身を取り上げているのも本章である。

第2章「日本人の死生観」

「死生観」と言うと文字はピンとくるが、意味・内容はピンとこない方もいる。死んだ後の世界はどのような世界かという議論であり、宗教によって異なる。仏教では輪廻転生があり、キリスト教では最後の審判があり、といったものがあるが、誰も死んだ後の世界はわからないため、思想などをもとにして考え、議論を行っていくしかない。

第3章「死は自己決定できるのか」

本書は安楽死・尊厳死について取り上げているのだが、当ブログでもいくつか安楽死尊厳死について取り上げた本を取り上げていることとほとんど同じように、各国の安楽死・尊厳死の現状と、日本の現状についてを取り上げている。

第4章「医療資源・経済と安楽死」

昨今では新型コロナウイルスの感染拡大が起因となる医療崩壊が議論されており、現に起こった、あるいは起こっている地域もある。しかしそうでなくても医療に関してはかねてから医療費に関しての議論がなされており、医療費の観点からの尊厳死・安楽死の議論もあるように見えて、実はメディアではほとんど取り上げない。本章では医療費の議論の他に、超高齢社会の時代の中で今どのように生きたら良いのかを取り上げている。

自分の死に場所を選んだら良いのか、選ぶ時期を考えたら良いのか、家族・周囲の方々の為に死んではいけないのか。それらを見てみると、結論は出てこない。もっとも人生観は人それぞれであり、どのように死ぬかもわからない。もっと言うと明日死ぬかもわからない。死に関しての議論はタブー視されているように見えるのだが、生きていく上で必要なことである。その考えを練り上げるにはうってつけの一冊が本書と言える。