里海資本論―日本社会は「共生の原理」で動く

KADOKAWA 岸山様より献本御礼。
今から2年前となる2013年、「デフレの正体」でベストセラーとなった地域エコノミスト・藻谷浩介氏「里山資本主義」なる本を出版した。ちなみにその本は藻谷氏だけではなく、NHKの取材班も同様に取材をしながら筆を執ったという。それから2年後となる今年、「里山資本主義」の筆を執った取材班は、新たな可能性をもって、今度は「里海」に目を付け、取材を行ったという。その「可能性」とはいったい何なのか、本書は瀬戸内海を1年間かけて取材してきてわかってきたことを伝えている。

第一章「海からの地域再生―古き筏が瀬戸内海を変えた」
「筏(いかだ)」というと木々で作られているものを想像してしまうのだが、本章にて登場する筏は「カキ筏」なるものである。「カキ(牡蠣)」は広島でよく漁れ、なおかつカキそのものには浄水能力が優れているのだという。
この「カキ」によって海の再生を可能にしてきており、数十年単位で赤潮が減少していったのだという。

第二章「「邪魔もの」が21世紀の資源―「里守」が奇跡の海を育てた」
海における「邪魔もの」として本章では「アマモ」が取り上げられている。「アマモ」は水の中に生える長い草のようであり、漁船のスクリューに絡まってしまうなどから「邪魔もの」と言われている。かつて瀬戸内海にはアマモと呼ばれる草が数多く生えており、通称「海の森」とも呼ばれていたのだという。しかし戦後間もないころから経済発展のためにアマモが取り除かれていたのだが、それから漁師たちの長年の努力によりかつての海に限りなく近い状態に戻っている。そのアマモは邪魔ものと呼ばれているのだが、海の中にいる魚にとっては住処が戻ったのだという。

第三章「「SATOUMI」が変える世界経済―「瀬戸内海生まれ日本発」の概念が広がる」
第一章・第二章で取り上げられた方法は「SATOUMI」として世界に伝えようとしたのだが、最初に発表した時には欧米の学者から総スカンを食らい、罵声を浴びせられたのだが、それでも世界中で実践され、評価は覆すものになり「SATOUMI」が世界共通語になっていった。

第四章「“記憶”と“体験”による「限界」の突破―過疎の島が病人をよみがえらせる」
瀬戸内海に浮かぶ島の中で「過疎の島」と呼ばれている島は少なくないのだが、その「里海」の技術によって若者・高齢者の次々と受け入れ、最先端の島にしていったところについて取り上げている。本章で取り上げている「病人」についても肉体的なものもあれば、とりわけ精神的な「病」に冒された方々もいる。

第五章「広域経済圏となる「里海」―大都市でも「里山」「里海」はできる」
以前取り上げられた「里山」も今回取り上げられた「里海」も、その土地限定なのかというとそうではない。著者たちは東京でも可能だという。本章ではその理由について取り上げられている。

海にある「自然」を戻すだけではなく、経済的に役立てながら、かつてあった自然に戻す。そしてその先にその自然の恩恵を受けながら共生していく「里海」は瀬戸内海から日本全土、そして世界へと発展していっている。まだまだわからない「自然」の良さを活かすということは今もそうだが、かつて日本人が培ってきた道を、今の形にアレンジメントしたともいえる。本書は日本における自然の可能性を「海」の観点から取り上げられた一冊といえる。