脳科学者の母が、認知症になる―記憶を失うと、その人は“その人”でなくなるのか?

本書は脳科学の観点から認知症の分析を行っているのだが、その一方で、著者自身の母親が認知症になったことによって認知症に対する考え方について、学問を超えて、認知症との付き合い方と言ったところがメインになってくる。そのため「理論」と言うよりも「体験談」と言った方が良いのかもしれない。

1.「六五歳の母が、アルツハイマー型認知症になった」
もしも自分の母親が認知症になったならどうするか。私は既に親から離れたところに住んでいるため、1年に1度しか会うことが無くなってしまったのだが、それでも肉親であるため、つらい気持ちになってしまう。本書の著者と同じく「認知症になるはずがない」と思ってしまうのだが、悲しきかな認知症は、どんな人にも起こりうる病気であるという。

2.「アルツハイマー型認知症とはどういう病気か」
認知症にも種類があるのだが、著者の母親がなった認知症は1.や2.のタイトルにもある通り「アルツハイマー型認知症」である。その認知症のメカニズムについてはアルツハイマー病との関連性もあるのだが、具体的な治療方法についてはアルツハイマーとともにまだ見つかっていないのが実状である。

3.「「治す」ではなく「やれる」ことは何か」
そのため「治す」よりも「付き合う」といったところにフォーカスを当てざるを得ない状況である。認知症と付き合うためにはどうしたら良いのか、脳科学的な観点からの処方せんを提示しながら実践したことについて記録している。

4.「「その人らしさ」とは何か―自己と他者を分けるもの」
本章のタイトルを見るに「個性」を出しているのではと連想してしまうのだが、実際には脳の動きから認知症を考え、それが果たして病気なのか、あるいは「個性」を表しているのかは変わってくる。

5.「感情こそ知性である」
認知症と診断されて2年半が経過した時の心境と感情と知性の関係性、そして脳科学的な観点から認知と感情、知性はどのような関連づけられるのかについて考察を行っている。

本書は単なる脳科学と認知症の考察ではなく、実際の体験談も交えている。そのため認知症というと医学的な観点で求められるのだが、著者自身が脳科学者であるだけに、医学とはまた異なった観点から認知症を解き明かすとともに、認知症は家族とともにもはや他人事ではないと言うことを知ることができた一冊とも言える。